経営とアート、「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか」を要約し、学ぶ!
インナーブランディングという観点からの記事を書いてきましたがここでは、経営における意識についての記事を書いてみたいと思います。
この記事は山口周氏の書籍・「世界のエリートはなぜ美意識を鍛えるのか」を要約しつつ、2021年が初稿ですが、2024年になった現在でも共感の深い内容です。
YouTube でも話してみたのでよろしければチェックしてみてください。2回に分けてます!
Contents
美意識とは
この書籍の中では経営における美意識を扱っています。必ずしも美術の分野に特化した内容になってるわけではないです。
この書籍の中での美意識の定義は必ずしも明確になっているわけではありません。使われている意味合いとしては非常に広いです。「美意識」以外に使われている言葉としては 以下の用語がありました。
- アート
- 感性
- 感覚
- 直感
沢山の用語を用いて説明をされているので取っつきづらさはあるものの、 この書籍を通して通底しているのは、変化が激しく世の中の見通しが全く立たない世の中では論理と理性が限界を迎えるということです。書籍内では 経営における美意識を発揮するシーンというのは以下の四つでした。
社員や取引先の心をつかむわくわくさせるビジョン
道徳や倫理に基づく自分たちの行動を律する行動規範
合理的で効果的、自社の強みや弱みに整合するもの
顧客を魅了するコミュニケーションやプロダクトなどの表現
ワクワクするようなビジョンが一番初めに来ているのがとても印象的です。企業トップが未来について話をする時ワクワクしながら語ってる社長さんを見ることがあります。
そういう方の話を聞くとき、聞いてるこっちもワクワクすることがあります。ビジョンには人を惹き付ける力がものすごくあるということです。そういうことも含めてこの書籍の中では美意識というくくりの中で説明がされています。
VUCAな時代だからこそ美意識が必要
さて、この美意識が注目されることになった背景を説明せねばなりません。
高間は1979年生まれの40代ですが、経営における美意識と言う感覚は20年ぐらい前だと、有り得なかった感覚です。
会社の中で美しい、や面白いなどという言葉は、無駄なものとして捉えられる傾向がありました。軽視されてきたと言ってもいいでしょう。
高度成長期以降の日本は大きな変化がないビジネス環境の中にいました。だから経験も経験や知識、 論理的思考などで乗り切ってきた。
しかし世の中がここ20年ぐらいの間に大きく変わりました。Vucaな時代と言います。VUCAな時代とは変化が激しく先の見通しが立ちにくい世の中のことをいます。
- Volatility(変動性・不安定さ)
- Uncertainty(不確実性・不確定さ)
- Complexity(複雑性)
- Ambiguity(曖昧性・不明確さ)
これらの単語の頭文字を取って付けられた言葉です。
このような環境下では問題を構成する因子が複雑になり、理性や論理では太刀打ちできなくなってくるというのが美意識に注目が集まっているのが背景です。
余談)私のサラリーマン時代の経験
私の経験談ですが、面白い取り組みができるかどうかは企業トップがどのような考え方を持っているかに大きく依存すると思います。
リスクを極端に嫌う企業トップは 理性と論理を重んじるでしょう。私はサラリーマン時代に、専門商社に勤めていたことがありました。
完全にコンプライアンス違反をしていたのが勤怠管理。
勤怠管理ができていなかったので導入をしようと、動き始めてから実際に稼動するまで一年かかりました。
その間に行ったのは経営者が納得するような完全な計画と見通しです。何度も試算を繰り返し、細かい疑問点を指摘され、何度も突き返されました。
このプロセスは会社の文化を表してると思います。勤怠管理を行っていない会社で勤怠管理を導入するのがとても大変なことは前提ですが、 コンプライアンス違反をしている状態を1年間以上 放置できる感覚はこの書籍で言うところの美意識の欠如に他ならないでしょう。
経営における三要素としての美意識
経営の要素をアート/クラフト/サイエンスという3要素に分けたカナダのは、マギル大学のミンツバーグ教授。アートは美意識にあたります。
直感・感覚・感性
知識・経験
分析・評価
サイエンスとクラフトで作られたプロダクトはコピーされやすく、そのスピードもとても早い。 一方でアートで作られたストーリーや価値観はコピーすることができません。
一方でアートで作られたストーリーや価値観はコピーすることができません。
アート経営の例
さてここからはアート経営の例を見ていきます。
経営トップがアート型、クラフトとサイエンス型の幹部が脇を固める ガバナンスで企業を運営しているケースが紹介されています。
ウォルトディズニー
次々と革新的なビジョンを打ち出す弟のウォルトと元銀行員というキャリアを活かし財務面リーガル面で支え続けた兄のロイ
ホンダ
創業期を支えた本田宗一郎と藤沢武夫
アップル
アートで引っ張るスティーブ・ジョブス
サイエンスとクラフトのジョン・スカリー
良品計画
深沢直人氏がプロダクトデザイナー(アート)として、代表取締役の金井政明氏より直接依頼を受ける
400年前の日本
豊臣秀吉は、彼の考える社会の美的な側面を具現化し反映させるため、千利休を雇った。
良品計画と千利休の例は、企業トップが美意識の高いクリエイティブディレクターを雇ってアート側面に関する権限を全面的に移譲し、実行させるというスタイルです。
なるほど、経営者本人がアートの側面を実施する技術がなくてもクリエイティブディレクターを雇って行うという方法があるのですね。
ちなみに千利休は茶室を設計したり、実際に作ったりする実務能力はなかったようです。その代わりにその技術を持つ人たちを集めて目指す姿を具現化していくことを行った。その結果、安土桃山時代の文化が花開いたということですね。
インナーブランディングとしての美意識
ここは私が感じたことを書いてみたいと思います。 インナーブランディングにもトップの美意識が如実に反映されます。
経営トップが使う言葉や、見ている未来のビジョンが社員を大きく勇気づけ顧客を引き付ける。
トップによるワクワクするようなビジョンがないといくら、インナーブランディングを行っても、ありきたりでつまらないものにしかなりません。
アート感覚のある経営トップの会社は素敵です。私の顧客には、アート感覚の経営者がいる会社が2つあります。
1社は社長がデザイナー、もう一社はビジョンが見える(!)経営者であり、ちょっと第6感に近いものがある方です。
車で信号待ちをしているとき、空をボーと見ているとき、リーマンショックから回復して、これから景気がよくなるな、と直感的に感じたら、その3ヶ月後くらいから徐々に景気が持ち直した、という(!)
両社ともに、経営者のアート感覚がすごく強く、数字、分析や経験だけに頼らない部分を強く感じます。
その結果、インナーブランディングを意識せずとも、社長の個性が雰囲気、文化にものすごく影響を与えています。
- 社長が報告や連絡を嫌う
- ルールは変えるものであるという意識が浸透している
- 町工場なのに平均年収が600万円を超える
- 社員があだ名で呼び合う
- 上下関係がない(リーダーは存在する)
上記のような一つ一つの施策が、インナーブランディングとして、文化形成に役立っていると言えるでしょう。
当社の経験
仕事をする相手を選ぶときにも美意識は指針になります。当社も様々な相手との仕事の経験がありますが、「仕事を断る」という選択をする時はこの「美意識」に従います。
当社の目的は「楽しく働ける会社を増やす」。そのために当社はオリジナルな手法である企業内で行うラジオ番組を運営するという方法を取っています。
ラジオ番組は情報伝達手段としては極めてアナログな手法ですが、アナログだからこそ伝わる感情や情緒を伝える手段としては、これ以上ないくらい優れています。運営者の根底には「楽しさ」がなければ成り立ちません。
楽しさが失われると、仕事を続けることが出来ません。これは当社にとっては、仕事を断る立派な理由です。
感情や直感としての美意識・ソマティックマーカー仮説
いきなりなんの こっちゃですが、すこし聞いてください(笑)
意思決定において情動的な身体反応が重要な信号を提供するという仮説にソマティック・マーカー仮説というものがあります。
わかったようなわからんようなですが、脳の一部を損傷して感情がなくなった患者が日常で服を選んだりする、ほんの些細な決定もできなくなったことに気づいた脳科学者が、意思決定に感情は大きく関係しているのではないかと立てた仮説です。 上記の説明の中には心臓がドキドキするなどの身体的反応と言及されています。 霊感が強い人が「なんかこの場所ざわざわする」などと、頭よりも先に体が反応することを示すことがありますよね。 そんな感覚に近いのではないかと理解しました。
私は霊感は全くありませんが、体の中で生じる微妙な変化を捉えるということで、ソマティックを鍛えることができるようです。書籍の中ではマインドフルネスが有効であると、記載されていました。
脳の損傷により、知的には正常(むしろ優秀)だが、感情が著しく減退した患者エリオットは日常の小さな意思決定すらできなくなった。
手がかりもなく、打開策が見出せないまま一旦この問題から離れることにしたままダマシオは、やがてエリオットのある傾向に気づいた。
極端な感受性や、情動の減退である。悲惨な事故や災害の写真を見ても感情的な反応がほとんどないこと、あるいは病気になる前は愛好していた音楽や絵画について手術の後には無関心になってしまった 。
このことに気づいたアントニオ・ダマシオ(脳科学者)は合理的な判断には身体感覚や感情は不可欠であるという仮説を唱えた。(ありえないオプションをバッサリ切り捨てるのに情動が寄与している)
考えてみると私達も生活の中で無数の判断や決定を下しているわけですが、感情がなかったら決定ができないだろうということは想像に難くありません。 服を選ぶときからして、今日は青のシャツがピンクのシャツか、その日の気分で選ぶことがデフォルトになってるような気がします。 つまり感情や情感はこれまで、悪者だと考えられてきましたが、意思決定においては大きな役割を果たしている、ということがこの仮説で提唱されています。 「感情的になるな」という言葉を聞きますが、むしろ感情に従ってあらゆることを決めていうことは合理的であると言えるでしょう。 次に直感についての言及も見てきたいと思います 。 以下に記載したスライドは書籍の中で直接言及されていることではありませんが、別のウェブサイトから見つけた将棋の羽生善治さんのコメントを引用してきております。 何をしたらいいのか、どうなっているのか見えにくい、分からない時代を生きていかねばならない。そのときのひとつの指針となるのが直感だ 羽生善治 直感力より直感としての美意識
何かを決める時に「直感で決めました」ということは、あると思います。服を選んだりものを購入したりする時に直感で選ぶのはむしろ良いとされていますが、こと経営において直感で決めましたというのはなかなか言いづらいですよね。
では少し掘り下げてみると直感というのは最初から天賦の才能のように備わっているものかというとおそらくそうではなくて、羽生善治さんの例で言えば膨大な数の経験の中で直感力というのは備わっていくものなのだろうと理解しました。
アマチュアトップレベル 将棋士と プロ将棋士の考える打ち手に論理的な差異はさほどないそうです。
しかし大きく差が出るのが勝負の序盤で、最終的に勝てる打ち手を頭の中に思い浮かべることができるかどうかの差が決定打になるそうです。
これは経験によるところがかなり大きいよう。膨大なる数の経験が直感力に結びついていくものであるということですね。
いかがでしたでしょうか、ざっくりと要約をしてきたのですが、理解の促進につながれば幸いです。ではまた!
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