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新入社員・若手の定着の効果的な施策は?社内ラジオは長期的に効果的を発揮

新入社員や若手社員の定着は、企業の成長において非常に重要な課題です。せっかく採用した新入社員が1週間で退職するという悲劇は本当にショックが大きいですし、しっかり育ててこれから、というタイミングでの若手の退職も悲劇そのもの。

今回は、人事担当者様向けに、社内ラジオのパイオニアの筆者(元、企業の人事なのです)が独自視点で新入社員や若手の定着の施策についお話します。結論を先に言いますと、定着にマジックはありません。上司・リーダーの関わり方が最も大きいでしょう。ではみていきます。

新入社員・若手社員の定着の低さは社会問題化

新入社員や若手社員の定着の低さは、企業だけでなく社会全体にとって大きな問題となっています。厚生労働省のデータによると、日本の新入社員の約30%が入社後3年以内に離職しています。

https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177553_00005.html

この高い離職率は、採用コストが無駄になるだけでなく、企業全体の士気にも悪影響を与える破壊的数字。

人事部門が採用活動に追われても若手社員からどんどんやめていくと、不毛ないたちごっこです。新入社員・若手社員の定着を図ることは、企業の成長と持続可能性を確保するために喫緊の課題となっています。

新入社員・若手社員が定着しない理由

厚生労働省の調査によると、新入社員・若手社員の主な離職理由には以下のようなものがあります。

  • 仕事内容のミスマッチ: 仕事が思っていたものと違う、仕事内容に満足できない
  • 職場の人間関係: 同僚や上司との関係がうまくいかない、職場の雰囲気が合わない
  • 労働条件の不満: 給与や勤務時間、労働環境に対する不満

仕事のミスマッチとは、入社3年未満で判断するのは早いような気もしますね。私はこういう調査をあまり、信用しておりませんが、人間関係に行き詰まりを感じて離職することは十分にありえますし、私自身も経験がありますので離職の理由としてはある程度真実を表していると言えるでしょう。

リクルート社の調査では労働条件がトップ

一方、リクルート社が1~3年目の若手を対象に行った調査(2023年)によると、退職の理由トップ3は以下のようになりました。

  • 労働環境・条件がよくない(休みが取りにくい)
  • 給与水準に不満
  • 職場の人間関係がよくない、合わない

https://www.recruit-ms.co.jp/issue/inquiry_report/0000001212/#issue02

インターネットによる調査です。「人間関係がよくない」という表現がどの程度を表しているのか、不明ですが、人間関係が退職理由に入るのは厚生労働省の調査と同じでした。

やはり、新入社員や若手の時代は不安も多く、上司との対話で気持ちが安らぐことも多いです。新入社員・若手が会社に定着する上でのキーを握るのが上司であることは間違いないでしょう。

Performance Maintenance(PM)理論の活用

さて、本記事の主題である新入社員・若手の定着の施策ですが、上司・リーダーの接し方で状況は大きく変わると言えます。施策の前に、リーダーシップが大事でしょう。

Performance Maintenance(PM)理論をご存知でしょうか?上司・リーダーの部下への接し方を非常にわかりやすく説明した理論がこのPM理論です。

PM理論とは

PM理論は、リーダーシップの機能をパフォーマンス(仕事)とメンテナンス(集団の維持
)の2つの機能で説明したものです。

パフォーマンス(仕事=つまり仕事の成果)

部下の仕事の成果を向上させるための行動。具体的な指示を出し、目標達成に向けたサポートを行います。

メンテナンス(集団維持=つまり人間関係)

部下のモチベーションを維持し、チームの一体感を高めるための行動。部下の意見を尊重し、適切なフィードバックを提供します。

P型行動の例
  1. 目標設定
    • チームの目標を明確に設定し、その達成に向けた具体的な計画を立てる
  2. 仕事の分配
    • メンバーの能力に応じて仕事を効果的に分配し、効率的な作業を促進する
  3. 進捗管理
    • 仕事の進捗を定期的に確認し、必要に応じて修正や支援する
  4. 仕事の評価
    • 仕事を評価してフィードバックする
  5. 問題解決
    • 発生する問題に迅速に対応し、解決策を見つけ出すことで仕事の進行を妨げない
M型行動の例
  1. コミュニケーション促進
    • チーム内でのコミュニケーションを促進する
  2. メンバーサポート
    • チームメンバーを心理的に支える
  3. チームビルディング
    • チーム内の健全な人間関係を維持する
  4. フィードバックを集める
    • メンバーの意見に耳を傾ける。

図の右上の象限、リーダーが部下の仕事の成果を高めようとする行動を取ると同時に、部下のモチベーションやチームの一体感を維持するように接するときに、最もチームの成果が高くなり、長期的な定着に繋がります。(ラージPラージMなどと呼ばれます)

これを読んでいる管理職の方は理解できると思うのですが、人間関係を無視した軍隊式のリーダーシップは新人が疲弊して定着しません。逆もしかり。

人間関係のみを意識して、仕事の成果を求めない、ぬるま湯職場では結果的にチームの雰囲気が悪化します。(メンバーが好き放題に働くようになる)

新入社員や若手の定着に効果的であると私が感じるリーダーの行動はP型行動の中にある「フィードバック」です。具体的に書いてみますね。

即時のフィードバック

新入社員・若手の定着を促すためには、フィードバックが欠かせません。フィードバックは、新入社員の教育上もっとも大事かもしれません。特に、即時のフィードバック。

「今の〇〇の行動、〇〇な部分が良かった」

などです。ポジティブなフィードバック、改善点をフィードバックする際も即時に具体的に伝えことがポイントです。

リーダーシップの文脈における「ABC分析」は、リーダーの行動がどのようにして組織の成果やメンバーの反応に影響を与えるかを理解するための分析手法です。手法の名前はどっちでもよくて、部下の行動に即座にポジティブかつ具体的なフィードバックを与えることが部下の行動を継続することに繋がります。

新入社員や若手を成長させるのは上司やメンターの関わり方です。私は成長実感があれば会社をすぐにやめようとはしないと考えています。成長し、職場に貢献できているという実感は職場への定着に直結します。

上司部下コミュニケーションをABC分析で

せっかく書いたのでABC分析を説明。

  1. A (Antecedents) – 前提条件 部下の行動に影響を与える前提条件です。
  2. B (Behavior) – 行動 部下の取る具体的な行動です。
  3. C (Consequences) – 結果 行動の結果です。

A (Antecedents) – 前提条件

新入社員が初めて顧客対応を経験する。

B (Behavior) – 行動

新入社員はマニュアルを読み込み、シミュレーションを行い、実際に顧客対応した

C (Consequences) – 結果

上司が新入社員の対応を観察し良かった点と、練習が必要な点、改善点を具体的に即座に伝える

上司の上記の関わり方は部下行動が持続・継続するポイントです。自分が行った結果が即座に出るということです。

余談ですが、あらゆる依存症もこの理論で説明ができます。即座に結果がわかる取り組みはハマりやすい。

ギャンブル依存などもそうですね。

A (Antecedents) – 前提条件

仕事のストレス、抱えている家庭の問題、退屈に感じる時間にパチンコに行きたい衝動が生じる

B (Behavior) – 行動

パチンコ店に行きプレイした

C (Consequences) – 結果

とても楽しく感じ、ストレスが和らいだ感じがした

プレイして即座に結果がでている、という点が行動の継続につながるのです。これがパチンコ店に行き、結果がでるのが1年後だと誰もハマりません。

リーダーシップの工夫以外の施策

さて、上記ではリーダーシップをみてきました。ここからは具体的な施策をみていきます。

メンター制度

新入社員・若手の定着には、メンター制度の導入は効果的な施策です。メンターは、新入社員・若手の相談相手となり、職場での悩みや不安を解消するサポートを行います。メンターとの信頼関係を築くことで、新入社員は安心感を持ち、職場への定着が促進されます。

これは強力です。「新人のときに面倒をみてくれた先輩」の存在がなんと大きいことか。人間関係は職場への愛着を醸成しますのでメンター制度はとてもよい施策の一つです。

ただし、メンターの業務は通常業務に付加されるので、メンターの負荷はそれなりに大きいと捉えておく必要があります。

セルフキャリアドック

2016年に施行された改正職業能力開発促進法により従業員と企業の双方に義務付けられた制度で、企業が社員のキャリア自立の支援を行う取り組みです。なんと無料で導入できます。(財源が雇用保険)

具体的には、厚労省の委託事業を受けたパソナがキャリアコンサルタントを導入企業に派遣。研修や特定の階層の社員に1on1ミーティングを実施します。こちらにも記載しました。

https://office-ennichi.com/inner-branding-reduces-the-turnover-rate-and-the-in-house-radio-is-gradually-showing-its-effect/

ただし。セルフキャリアドックは長期施策としては活用できません。1年のみの期間限定です。1年が経過したあとは、自社でキャリコンを育成して運用を継続するか、キャリコンを招いて運用するかの2択になります。長期でプランを描いて運用することが大事です。

社内ラジオの活用

社内ラジオは、新入社員・若手の長期的な定着を促進するためのツールです。会社への親近感を短期で醸成し、コミュニケーションの場として機能します。

社内ラジオは長期的な定着施策

なぜ社内ラジオが定着にきくのか?社内ラジオは社内報の役割に近いです。ですが、ラジオの特徴的は人のメディアであるということ。人の魅力で惹きつける社内メディアである事を踏まえると、「情報」を伝えるという役割の社内報を超えています。

人への「愛着」や「親近感」を醸成するツールであることから、会社への愛着を長期的に醸成することに長けています。

長期で定着に効く特徴

改めて、ラジオを社内報として捉えた場合の特徴をまとめてみるとこんな感じです。

  • 人のメディアであり、出演者への親近感・愛着を醸成することに長けている
  • 社員の習慣になりやすい

つまり、聞き続けられる。(面白いと感じられることが前提です)2回聞くと、3回目も聞いてもらえ、その後も継続されやすいです。さて、新入社員・若手が定着するまでのフェーズを書いてみます。

  1. 自部門の人間関係ができる
  2. 経営トップや社員に親近感を感じる ⇐ 社内報
  3. 会社自体に親近感を感じる  ⇐ 社内報
  4. 自部門の仕事がわかる
  5. だんだん活躍できる様になってくる
  6. 後輩ができ、仕事が楽しくなってくる
  7. 他部門の社員の人柄をなんとなく知る ⇐ 社内報
  8. 他部門の仕事をうっすら知る ⇐ 研修・社内報
  9. 自社の人事の制度を知る   ⇐ 人事や総務の発信・社内報

順番はこの通りになることもならないこともあります。しかし、最も大事なのは①です。ここは社内報の役割ではありません。ここでコケると離職を考えますね。ですので、新入社員・若手の離職を防止する最も大事な役割を担っているのはリーダーです。

②③のフェーズは社内報が担う部分です。社内報の出番は意外と多いことがわかります。ラジオは人の魅力で引っ張るメディアですので、ハマると訴求力はテキストで書かれた社内報より高いです。

長期にわたり聞き続けてもらい、少しづつ経営トップの人柄や社員の人柄、他部門の仕事や様子、雰囲気を理解してもらい、愛着を醸成するツールとしては最も適しているのではないでしょうか。

上記の流れを外れることなく、すこしづつカスタムしてコンテンツを作っていくのが運用の大きな流れです。応用例はこんな感じです。

  • メンター制度がある会社様は、メンターが捉えた悩みを社内報でシェア
  • 悩みを乗り越えた、すこし先輩社員が経験談を語ってもらうコンテンツを作る
  • 社内の他の職場の様子を知ることで将来の異動の可能性を感じることができる
  • 運用を新入社員にラジオの運営をお任せすることで人材育成を行う

社員の定着を目的にした社内報としてのツールは社内ラジオだけではありません。印刷社内報・PDF社内報・WEB社内報もあります。それぞれの特徴はこんな感じです。ご参考に。

人が主役のメディアが社内報です。うまく組み合わせて使用してくださいませ。

結論

新入社員・若手が定着して、長期にわたって活躍してもらうには、上司同僚との人間関係構築と、仕事での成長支援の両方からのアプローチが効果を発揮するでしょう。

上司の役割は小さくありませんし、社内報としての社内ラジオ・メンター制度などの施策と組み合わせて行うと盤石な経営基盤となるでしょう。検討してみてください。

社内ラジオが気になったら↓

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