高齢者施設での社内ラジオの可能性、語りが持つケアの力

「社内ラジオ」は、一般的には企業内で社員のコミュニケーションを思い浮かべる方が多いですし、弊社も実際に一般事業会社での実施をしております。
しかし、この社内ラジオは高齢者施設にこそ、真価を発揮するのではないかと思っているところがあります。
私、高間はもともと病院グループで働いていた経験があります。介護老人保健施設と呼ばれる、看護や介護、リハビリテーションなどの医療ケアを提供する施設もグループ内にはありました。介護現場でこそ働いたことはないのですが、辞めてから「ラジオ、ハマりそうだなあ」とぼんやりと考えていたものです。
今回の記事は実は参考図書に基づいています。この書籍を読んでひたすら感動したために、この記事を書こうと思いました。
参考図書は、著者は立命館大学の小川 明子 教授の『ケアする声のメディア: ホスピタルラジオという希望』です。興味を持ったら是非手にとって見てください。あなたの会社でのラジオの勘所が詰まっていますし、これからラジオを行いたい、と検討している高齢者施設様にもものすごくよい参考図書になります。

社内ラジオ高齢者施設に「聞いているだけで安心感を感じられる」温かい仮想のコミュニティを作る可能性があります。この記事では、社内ラジオが持つ「ケア」の力と、高齢者施設での活用方法についてご紹介します。
Contents
社内ラジオがもたらす安心感:心に届く「声」の力
ラジオのパーソナリティが語りかける声には、聞いている人をホッとさせたり、元気づけたりする効果があります。ラジオがもたらすケアの要素を挙げてみました。
- 「自分に語りかけてくれている感じ」
パーソナリティがリスナーを意識して話すことで、リスナーは「自分に語りかけてくれている」と感じます。この感覚が孤独感を和らげ、安心感を生み出します。実際に、一人で食事をしているときに人の声を聞くと、食事を美味しく感じる、という調査があります。 - 「番組に参加している感じ」
ラジオにお便りを送ったり、名前(ラジオネーム)を呼ばれるだけでも、「番組に参加している」というつながりを感じられます。たとえ直接顔を合わせることが難しい高齢者でも、このつながりの感覚は心のケアになるでしょう。 - 「いつもの感じ」
お便りをよく送るリスナーの存在があることで、「あの人がまた参加してるな」という日常感が生まれます。この安定した「いつもの感じ」は、高齢者にとって安心できる日々の一部となります。
特に高齢者施設ではこの「ケア」の側面はQOLの向上に無視できない効果をもたらすものと思っています。
自分語りはケアである
ラジオに参加することで感じられるケアの側面があります。お便りを読まれたり、ラジオ番組に出演して自分語りをすることを指していますが、このことは「自分の存在の承認」にほかなりません。
この「自分の語り」は、心理学やセラピーの分野で「ナラティブ」と呼ばれるものに通じます。(フランス語だそうです)自分の物語を語ることで自分を見つめ直し、捉え直し、心を癒す効果があるとされています。
ラジオの中で、自分が経験してきた思い出や趣味を語る。それを他のリスナーが聞いているかもしれないと思うと、ちょっとむず痒いけれど、嬉しい体験になるでしょう。この「誰かが聞いている」という感覚は、人とのつながりが困難になった方もおられる高齢者施設では特に効果的ではないか、と考えています。
社内ラジオの活用で高齢者施設が変わる
高齢者施設では、利用者同士やスタッフとのコミュニケーションが難しい方もいます。そんなとき、ラジオは新しい形のコミュニケーションツールとして役立ちます。
- お便りの参加でつながりを実感
簡単なメッセージでも「読まれるかも」と期待を持つことで、日々の生活に楽しみが増えます。 - ラジオ出演でナラティブの場を提供
自分の好きな本、昔の思い出、得意なことなどを話したり、自分の人生を振り返って話す機会は自分を捉え直す場になります。 - 安心感のあるリスニング環境
ラジオが日常の中にあることで、いつでも声に耳を傾け、施設内の人々が「見守られている」と感じられます。
ラジオの未来:語りがつなぐコミュニティの形
社内ラジオは、企業だけでなく福祉や医療の現場でこそ大きな力を発揮します。ラジオは語りとつながりを生み出す双方向メディアです。導入すると、じわじわと利用者、患者のQOLの向上に寄与するでしょう。
まとめ:社内ラジオがもたらすケアのかたち
- ラジオの作る仮想コミュニティは安心感を与える力がある
- 自分の語り(ナラティブ)がケアの効果を持つ
- ケアとコミュニティの両方を実現できる場として活用すると施設の価値が上がる
社内ラジオは、心をつなぎ、人々に寄り添うコミュニティを作り出す力を持っています。導入している高齢者施設もすでに出始めており、日本でもイギリスのようにホスピタルラジオが根付く日も遠くないかもしれません。